「ピクサー流 創造するちから」

ピクサー社長のエド・キャットムルのピクサー経営哲学をまとめた本「ピクサー流 創造するちから」を読んだ。
とても面白かった。分厚い本だったが一気に読んでしまった。
ピクサーの歴史というとどうしてもスター監督であるジョン・ラセターやオーナーだったスティーブジョブズが目立ってしまい、正直私もエドをピクサーの経営をやってる社長として地味な存在だと思っていた。
この本を読むと、若い頃からジョンラセターと同様「コンピュータによる長編アニメーション映画を作りたい」という夢を追い求めてルーカスフィルムに入ったりしたのがわかり、エドとジョンがピクサーを作るために出会ったのは運命的な出会いだったんだなと思った。
そして、アニメ映画製作というとてつもない金のかかることを実現するため、途方もないお金と時間がかかってしまい、そこにオーナーであるスティーブジョブズが出てきて、3人によるピクサーの物語が始まる。
この本は映画製作というクリエイティブな作業と、ピクサーという会社の経営のバランスをどう取るか、その中で創造的なイノベーションを持続するためにはどうしてきたかという経営哲学が語られたマネジメント本である。
ピクサーのサクセスストーリーというとドキュメンタリー「ピクサー・ストーリー」が好きで何回も見たが、こちらがジョン・ラセターの制作の物語なのに対して、この本はエドによるピクサーの経営・マネジメントについて非常に詳しく書かれている。
経営・マネジメント本によくある抽象的なマネジメントだけで終わりみたいな本ではなく、ピクサーという会社で起きた出来事、やってきたこと、登場人物、作り上げてきた映画、失敗や成功が、非常に具体的かつ分析的に書かれている点がとても面白かった。
ピクサーの作品を見てるとあたかも天才達が苦労しつつも一直線に作り上げたイメージがあったが、これを読むとまったくそうではないのがわかる。モンスターズインクの初期構想が「30代のオッサンが抱えるトラウマがモンスターとして目に見える」みたいなストーリーだったのは驚きだった。
ストーリーの初期の段階から、修正、失敗、批評、ミス、作り直しを繰り返して、みんなでよりよい映画を作るために実践してきたこと、そしてそのための環境・仕組み作りについて、本書では多く説明がされている。
映画作りを電車の運転にたとえると、運転士が電車を引っ張っているように感じるせいかみんな運転席に座りたがるが、本当に方向性を決めるのは線路を設計する人だ、と言うたとえ話が面白かった。
また、この本ではスティーブジョブズの話も出てくる。特にジョブズがクローズアップされるのは、ジョブズピクサーのオーナーになるとき、ピクサーのキャンパスを設計するとき、ピクサーIPOするとき、ピクサーをディズニーに売るときだ。
特にジョブズは、ピクサーがより強固で自立した経営基盤を得るためにIPOとディズニーへの売却することを検討、判断、提案するシーンは圧巻だった。ジョブズの「未来を見通す力」が冴え渡ってる感じ。
それに対して、映画制作の素人を自認するジョブズは、映画制作のクリエイティブな部分にはほぼ口を出さないというのも意外だった。てっきりコンピュータ会社の経営に忙しくて放って置いてるだけかと思ってた。
そして、ディズニーとの合併後、ジョンとエドがディズニーアニメーションをいかに立て直したかという話は新しい話でかつ面白かった。合併当時のディズニーアニメーションがいかに大企業病に陥っていたか、そして、それをどう立て直したかが分析的に書かれていたのが凄かった。
その後のディズニーアニメーションの大復活劇、そして、アナ雪につながる萌芽が描かれていて、こうやってアナ雪のヒットに至ったのかというのがわかる感じだった。
さらにディズニーアニメーションの復活に反して、ピクサー大企業病に陥ってしまった話など、クリエイティブな会社が大企業としてイノベーションを続けていくかがいかに大変かが書かれている。
クリエイティブを維持する大変さと、変化し続けるための経営の仕組みについて書かれた凄い本だった。