アトピー性皮膚炎にまつわる社会的問題に関する本、「アトピービジネス」を読んだ。
面白かった、という言い方をしていいのかわからんが、ためになる本だった。
アトピー性皮膚炎は新人皮膚科医でも簡単に診療可能な大したことのない病気で、治療薬であるステロイドは臨床実績の数も歴史も豊富な"枯れた"薬なのに、なぜ、アトピーは難病になったのか、なぜステロイドは悪魔の薬になってしまったのかという問題について医学的、社会学的見地から論じた本だった。
著者はこの問題が起きた原因として、いくつか複合的な要因を挙げている。
まずは、マスコミの報道で、ニュースステーションの偏向報道と久米宏キャスターによる無責任な発言を機に、ステロイドを怖がる患者が増えたことから始まる。
そして、医学側も小児科医による食事療法によるアトピー対策を進める医者が出てきたり、皮膚科医にも患者の需要に押されて「脱ステロイド」を掲げる皮膚科医も出てきて、混乱する。
そして本書の主要な批判先であるアトピービジネスが出てくる。アトピー患者をビジネスにして民間療法という名で、意味のない療法で高額の料金を請求する人たちと、それに騙される患者、奇跡の治療法として無責任に報道するマスコミ、広告塔になる芸能人と、魑魅魍魎な世界が築かれてしまった。
その結果、皮膚科には「ステロイドを忌避する患者」が押し寄せ、アトピービジネスにはまってしまった患者は経済的、精神的、肉体的なダメージを負うことになる。
著者はこれらの原因について丁寧に批評、分析、解説して、特にアトピービジネスについて、一個一個具体例を挙げ批判を展開している。
また、根本的原因として、アトピー性皮膚炎の原因がわかっていないこと、対処療法は可能だが根本治療が難しいことを上げ、これがアトピービジネスのつけいる隙になってしまったということも論じている。
この手の学者が書いた本は、数字ばかりでつまらないことが多いのだが、本書は医学的な難しい話は極力わかりやすく、社会学的な話についても専門的な話を極力分かりやすく説明されており、アトピー性皮膚炎をとりまく経緯を把握するための良書だと思いました。
この本はちょっと長い本であるが、こちらの神奈川県皮膚医会講演録「ステロイド軟膏はあぶないクスリか?」を読めば要約が代わりになる。
☆☆☆☆★