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ITサービスマネージャ試験の不合格論文答案の分析

情報処理

はじめに

2013年の情報処理技術者試験の「ITサービスマネージャ試験」に合格したのですが、2012年の試験は午後2が合格点に達せず、不合格でした。
本エントリでは、私が2012年の本試験で作成した不合格答案(B評価)を題材にして、不合格となった原因を分析します。
結論を先に言うと、「問題文の要求に答えられなかった」のと「問題選択ミス」が原因でした。
(前エントリで、2013年の合格答案(A評価)の書き方について説明しています。)
2014年以降の合格を目指す方の一助になれば幸いです。


その他の試験区分の論文エントリは[情報処理]タグからどうぞ

例題

参考書や基本的な論文の書き方については前エントリに書いたので、今回は問題の解説から入ります。
私が前々回の試験で解いた2012(H24) - SM - 午後2 - 問2を例に、不合格答案の原因を分析してみたいと思います。
以下、問題文全文。

問2 ITサービスの継続性管理について

 大規模災害や社会的に影響が大きい事件・事故など、ITサービスを停止させる不足の事態の発生は避けられない。このような事態に備え、ITサービスをあらかじめ決められた範囲で復旧させ、顧客のビジネスへの影響を最小限にとどめられるようにしておくこと(ITサービスの継続性管理)は、ITサービスマネージャの重要な業務である。

 ITサービスマネージャは、不測の事態に備えて、ITサービス復旧に向けた対策を準備しておくだけでなく、その対策を確実に機能させるために、日頃から、例えば次のような活動を行う必要がある。

  • 定期的に研修、復旧訓練(トレーニング)を行う。
  • システム変更などによって、復旧すべきサービスの内容に変更が生じた場合には、速やかに対応マニュアルの改訂を行う。
  • 顧客の組織改訂や人事異動などに応じて連絡体制や実施体制を更新する。


 また、顧客の事業環境や外部環境などの変化に応じて、普及に向けた対策の大幅な見直しを行うことも必要となる。例えば次のようなものがある。

  • 顧客のビジネス環境の変化に伴う事業継続計画の変更に合わせた見直し
  • 従来想定していなかった規模・種類の災害などの発生とその復旧に向けた取組みを参考にした見直し


 あなたの経験と考えに基づいて、設問ア~ウに従って論述せよ。

設問ア あなたが携わったITサービスの概要と、不測の事態に備えて、ITサービス復旧に向けて準備した対策の概要について、800字以内で述べよ。

設問イ 設問アで述べた対策を確実に機能させるための日ごろからの活動について、800字以上1,600字以内で具体的に述べよ。

設問ウ 設問アで述べた対策の大幅な見直しについて、見直しの理由とともに、600字以上1,200字以内で具体的に述べよ。

問題は、大きく、タイトル、問題文、設問の3つから構成されています。
タイトルは「ITサービスの継続性管理について」という部分で、問題文はその下から設問の手前までの文章、設問は設問ア~ウに書いてある文章のことです。
説明の便宜上こう分けます。

採点基準

設問から採点基準を漏らさず抽出します。

設問ア
  • あなたが携わったITサービスの概要が書かれている
  • 不測の事態に備えて、ITサービス復旧に向けて準備した対策の概要について書かれている
  • 上記の内容が800字以内で書かれている
設問イ
  • 設問アで述べた対策を確実に機能させるための日ごろからの活動が書かれている
  • 上記の内容が800字以上1,600字以内で具体的に書かれている
設問ウ
  • 設問アで述べた対策の大幅な見直しが書かれている
  • 見直しの理由について書かれている
  • 上記の内容が600字以上1,200字以内で具体的に書かれている

本試験で私が実際にやった採点基準のマーキング作業はこんな感じでした。(写真をクリックして「オリジナルサイズで表示」をクリックすると拡大して表示できます。)


答案構成

上記の採点基準に沿って作成したのが以下の答案構成です。細かい解説は次項でやります。

設問ア
(1) ITサービスの概要
  • 製造業向け人事給与システムの保守・運用サービスを提供していること
  • ユーザは全国の人事担当者であること
  • 給与計算は絶対に止められないという特徴があること
  • 運用・保守チームリーダーとして参画
(2) ITサービス復旧に向けて準備した対策の概要
  • サービスレベルの定義と、人・ハードウェア・ソフトウェアのバックアップ体制
  • 顧客の業務を止めないマニュアルの整備
  • 連絡体制を明確にすることで円滑なコミュニケーションを実現する
設問イ
(1) 対策を確実に機能させるための日ごろからの活動
  • 研修・復旧訓練(トレーニング)
  • 災害対応マニュアルの改訂
  • 連絡体制や実施体制の更新
(2) 研修・復旧訓練(トレーニング)
(3) 災害対応マニュアルの改訂
  • システムの仕様変更が生じた場合は、SLAも見直す
  • 法改正に対応したマニュアルの改訂
(4) 連絡体制や実施体制の更新
  • 人事異動によるメンバーの変更と引き継ぎ
設問ウ
(1) 対策の大幅な見直しと理由
  • グループ会社再編に伴うシステムの統一化 ⇒ SLA・マニュアルの大幅な改訂
  • 計画停電対応 ⇒ サーバーの分散配置
(2) 事業継続計画の変更に合わせた見直し
(3) 想定外の災害等の発生と復旧に向けた取り組みを参考にした見直し

本試験で実際に私が作った答案構成はこんな感じでした。(写真をクリックして「オリジナルサイズで表示」をクリックすると拡大して表示できます。)

評価ランクの基準

上記の答案構成で結果はB評価でした。

IPAから公表されている試験要項(PDF)によると、午後2の評価ランクは以下の基準しかありません。

評価ランク 内容 合否
A 合格水準にある 合格
B 合格水準まであと一歩である 不合格
C 内容が不十分である 不合格
D 出題の要求から著しく逸脱している 不合格

上記の答案構成でB評価、すなわち「合格水準まであと一歩である」ということです。
では、何が足りなかったというと、試験要項に記載されている、以下の視点から評価されます。

・設問で要求した項目の充足度,論述の具体性,内容の妥当性,論理の一貫性,見識に基づく主張,洞察力・行動力,独創性・先見性,表現力・文章作成能力などを評価の視点として,論述の内容を評価します。また,問題冊子で示す“解答に当たっての指示”に従わない場合は,論述の内容にかかわらず,その程度によって評価を下げることがあります。

上記の評価の視点から、何が足りなかったのかについて、分析します。

設問ア
(1) ITサービスの概要

設問ア あなたが携わったITサービスの概要と、不測の事態に備えて、ITサービス復旧に向けて準備した対策の概要について、800字以内で述べよ。

本設問の答案構成:

  • 製造業向け人事給与システムの保守・運用サービスを提供していること
  • ユーザは全国の人事担当者であること
  • 給与計算は絶対に止められないという特徴があること
  • 運用・保守チームリーダーとして参画

問題文が求めている内容から外れてしまっています。

ITサービスの概要という点では間違っていないのですが、問題文の一段落目にある「大規模災害や社会的に影響が大きい事件・事故など、ITサービスを停止させる不測の事態は避けられない。このような自体に備え、ITサービスをあらかじめ決められた範囲で復旧させ、顧客のビジネスへの影響を最小限にとどめられるようにしていくこと(ITサービスの継続性管理)」についての記述がない。

ここで記述すべきなのは、「不測の事態」「復旧する範囲」「顧客のビジネスへの影響」でした。
例えば、以下のような記述です。

  • 不測の事態:地震や停電
  • 復旧する範囲:給与計算業務だけは最優先で復旧する
  • 顧客のビジネスへの影響:給与の遅配は経営への影響が大きい
(2) ITサービス復旧に向けて準備した対策の概要

本設問の答案構成:

  • サービスレベルの定義と、人・ハードウェア・ソフトウェアのバックアップ体制
  • 顧客の業務を止めないマニュアルの整備
  • 連絡体制を明確にすることで円滑なコミュニケーションを実現する

問題文の趣旨から大きく外れてしまいました。

これは問題文中段の箇条書きにある「活動」の話であって、本来ここで書くべき「対策」の話ではありません。

ここで書くべきは、災害対策の基本的な対策、すなわち「事業継続計画の策定」や「復旧計画の策定」についてでした。

  • 対策の概要:「事業継続計画の策定」や「復旧計画の策定」
設問イ

設問イ 設問アで述べた対策を確実に機能させるための日ごろからの活動について、800字以上1,600字以内で具体的に述べよ。

設問イは「対策を確実に機能させるための日ごろからの活動」を求めています。
具体的には問題文中段の箇条書き部分について記述するよう求められています。
私の場合、以下の3つをまず項目として上げ、各々の内容について次項以降で詳しく説明するという構成にしました。

(1) 対策を確実に機能させるための日ごろからの活動
  • 研修・復旧訓練(トレーニング)
  • 災害対応マニュアルの改訂
  • 連絡体制や実施体制の更新
(2) 研修・復旧訓練(トレーニング)
(3) 災害対応マニュアルの改訂
  • システムの仕様変更が生じた場合は、SLAも見直す
  • 法改正に対応したマニュアルの改訂
(4) 連絡体制や実施体制の更新
  • 人事異動によるメンバーの変更と引き継ぎ

ここは内容も具体的に書きましたし、設問に沿った解答になっているため、採点基準から大きく外れてないと思います。

一歩足りなかった点としては、「設問アで述べた対策を確実に機能させるため」とあるのが、設問アがイマイチだったため、そのつながりが弱かったと推測されます。

設問ウ

設問ウ 設問アで述べた対策の大幅な見直しについて、見直しの理由とともに、600字以上1,200字以内で具体的に述べよ。

設問ウは「対策の大幅な見直し」と「見直しの理由」を求められています。
具体的には、問題文中段の箇条書き部分について記述するよう求められています。
本設問の答案構成:

(1) 対策の大幅な見直しと理由
  • グループ会社再編に伴うシステムの統一化 ⇒ SLA・マニュアルの大幅な改訂
  • 計画停電対応 ⇒ サーバーの分散配置
(2) 事業継続計画の変更に合わせた見直し
(3) 想定外の災害等の発生と復旧に向けた取り組みを参考にした見直し

この答案構成はほとんど問題文のコピーです。実際の答案には具体的なネタを書いたのかと思いますが、答案構成段階ではろくに思いつかなきませんでした。

問題文には「顧客のビジネス環境の変化→事業継続計画の変更→それに合わせた見直し」と書いてあるのに、事業継続計画の話をきちんとフォローできていません。

また「従来想定していなかった規模・種類の災害などの発生とその復旧に向けた取組みを参考にした見直し」とあるのに、復旧に向けた取組みという話を飛ばして、計画停電とサーバの分散配置という話に無理にまとめてしまってます。

ではどんな論点を書けば良かったかというと、無理に知ってるネタに持って行こうとせず、問題文をよく検討してそれに沿った内容を書くべきでした。例えば2個目の「想定外の災害」に関する論点で言うと以下のような答案構成が考えられます。

  • 従来想定していなかった規模・種類の災害などの発生:大地震による被災した支店のITサービス停止
  • その復旧に向けた取り組み:本社のITサービスによる緊急避難的な復旧の取り組み
  • 取り組みを参考にした見直し:支店の業務やITサービスを本店が正式に代替できる手続きと手順の見直し

評価の分析

評価の分析をまとめると、この問題では「事業継続計画などの復旧対策をきちんと整備して、それを確実にするための活動もした。さらに対策の見直しもやった」というストーリーが求められていたのですが、事業継続計画に関する話が抜け落ちていて、設問アから設問ウまで、災害対策・継続性管理の基本となる事業継続計画の話をベースにしないといけません。

この点で、私の答案は「内容の妥当性」や「論理の一貫性」という評価の視点で減点になったと考えられます。

なぜこういったことになったかというと、この問題は、過去問で頻出の「問題と対策と結果&反省」という流れではなく、「対策の羅列」というタイプの問題であったため、うまく答案を構成することができなかったため、「設問で要求した項目の充足度」が一歩不足する結果となってしまいました。

ではどうすべきだったかというと、別の問題を選択すべきでした。災害とシステムというのは具体的な論点が思い浮かびそうですが、時事ネタなので定型パターンが使えないというのに気づかずに安易に選択してしまったのが敗因かと分析しています。

採点講評

上記の分析を検証するために、試験後に公表されるIPAの採点講評.PDFで検証してみます。

 設問で要求していない事項についての論述が本年は特に目についた。設問は出題のテーマや趣旨に応じて設定している。問題文と設問文をよく読み,何について解答することが求められているかしっかり把握した上で,論述に取り組んでもらいたい。
(太字は私の加筆。以下同じ)

午後1と違って午後2は設問の理解自体が難しいため、趣旨から外れても気づきません。今回がまさにそうでした。

 また,昨年度の講評で設問アの“あなたが携わったITサービスの概要”の記述について注意を促したが,本年もシステムの機能や構成に終始するものが少なからず見受けられた。提供するITサービスについて記述する必要があることを改めて注意しておきたい。

システムではなくITサービスについて論述することを求められているというのはこの試験の大前提なのですが、気をつけないシステムの話になってしまいます。

問2(ITサービスの継続性管理)では,大規模災害や社会的に影響が大きい事件・事故など,不測の事態に備えたITサービス復旧に向けた対策について,その対策を確実に機能させるために日頃から行っている活動と,対策の大幅な見直しについて論述することを求めた。東日本大震災の発生など,ITサービスの継続性管理の重要性が見直されてきており,実務経験のある受験者にとっては論述しやすいテーマであったようで,良質の論述が多かった。一方で,問題文の引用に終始し,見識や考察の乏しい論述が見受けられたが,これは十分な実務経験がないことによるものと推測する。

こんな実務経験がある受験生なんてほとんどいないはずなので、多くの受験生は「経験と考え」のうち「考え」で勝負しないといけません。

また,通常のシステム障害に対する施策と混同している論述も見受けられ,継続性管理を必ずしも正しく理解していないと推察する。

これもよく考えて気をつけないと、ITサービスマネージャの定番テーマである資源管理、インシデント管理に引っ張られてしまうということでしょう。定番ネタ以外の問題は選ばないのが無難です。

なお,顧客の事業環境まで踏み込んだ論述がほとんど見受けられなかったことは残念である。

顧客の事業環境まで踏み込めなかったと言うことは、つまり、多くの人は設問に最低限の解答をするのが精一杯で、そこまで手が回らなかったということです。

そんな問題を選ぶべきではありませんし、やはり時事ネタは取っつきやすいけど難しいということでしょう。